トップインタビュー『この人に聞く』

(1)創業の経緯 |(2)起死回生の経営改革 |(3)今後の展開

株式会社エリアクエスト代表取締役 清原 雅人

聞き手:太田三津子(不動産ジャーナリスト)

事業用不動産を対象に、貸し主、借り主のベストマッチングを支援するエリアクエスト。貸し主にはキャッシュフローの最大化を、借り主には快適な環境の提供を目指している。清原雅人社長は創業3年1カ月で東証マザーズにスピード上場を果たした後、市場の悪化などの逆風にも遭遇するが、2008年に起死回生の経営改革を断行、再び成長路線に乗せた。「常に当事者意識をもって、貸し主、借り主のために全力を尽くす」を旨とする清原社長に、13年間の軌跡と起死回生の経営改革、今後の展開について聞く。

『この人に聞く』(2)起死回生の経営改革

――前回は創業から2003年のマザーズ上場までの経緯をうかがいました。今回は2008年の経営改革前後のお話をうかがいます。厳しい状況のなかで経営改革に踏み切った経緯からお願いします。

経営者の一番おかしやすい間違いは「自分ができるのだから、社員もできるはずだ」と考えることだそうです。私はその点は大丈夫だと思っていました。野村証券時代、下積みや挫折を経験したから社員の気持ちはわかる、とね。ところがそれは大間違いでした。

――というのは?

社員には「テナント付けで終わるな。常に当事者意識をもってオーナーの皆様のトラブルを防止し、解決して差し上げるようにせよ」と指示していました。ビルのオーナー様にとって借り手とのトラブルは悩みのタネです。店舗の場合は、法人相手のオフィスと違い、トラブルやクレームが多い。そこを解決して差し上げれば喜ばれるし、信頼を得られます。
 しかし、トラブルを未然に防止したり、円満に解決するには法規制から建築や設備まで広範な知識が必要です。交渉力も問われるし、時間もかかる。トラブル解決に力を入れると営業数字が下がってしまうのです。
 ちなみに、私も野村証券時代、同じ問題に直面しました。未上場の企業さんを上場させるために関係者とお引き合わせしたり、野村総研にお連れしたりしていたら手数料収入が下がり、上司に怒られました。そこで、数値目標もクリアしながら、お客さまが本当に望むお手伝いをするにはどうしたらいいか、知恵を絞りました。そうした経験があったので、社員にも同じことができるはずだと錯覚してしまったのです。

――ご自身が、営業マンとしては優秀で特異な存在であることに気づかれなかったのですね(笑)

ええ、不覚にも(笑)。気づくまでに随分時間がかかりました。もし、もっと早くわかっていたら、多くの人材を失わずに済んだのにね。

――何がきっかけで間違いに気づかれたのですか。

2008年に本部長が突然辞め、そのほかにも数人の社員が離脱してしまいました。それだけでもショックでしたが、空いた本部長のポストに誰も座りたがらない。収益責任を負って、私に責められるくらいなら出世しないほうがいいというわけです。そのうえ、FCバブルと飲食店バブルが弾けて出店も激減していました。社内も外部環境も最悪の状態になり、とうとう赤字に転落してしまったのです。

――崖っぷちに追いつめられた清原さんは、どうなさったのでしょう。

抜本的な経営改革に踏み切りました。「なぜ、できないんだ」と社員を叱咤激励するより、できない理由を探し出して徹底的にその部分を変えようと思ったのです。
 まず、社内に「自分が本部長をやる」と宣言した。「収益責任はすべて本部長である自分が負う。トラブル処理や契約書等の書類作成、賃料の減額交渉への対応や見込み物件の査定などの営業支援も、本部長である私が全部やる」と。

――難しい部分は全部ご自身で引き受けた?

ええ。もし、それが出来なかったら、辞めていった社員全員に心から詫びようと思いました。自分でもできないことを幹部や社員に押し付けて苦しめたことになりますからね。
 自分にとってもこれは大きな挑戦でした。なぜ、数字とサービスを両立できないのか。司法書士や弁護士と別途契約しているのに、なぜ、彼らと相談して速やかにトラブルを解決できないのか。また、未然にトラブルを防ぐためにどういう契約書を作成すればいいのか、自分自身で徹底的に研究しました。

――時間がいくらあっても足りなかったのでは?

最初は辛かったですね。でも、得たものは大きかった。創業当時は自分自身も営業で街を走り回っていたのでよく街を知っていた。それなのに街がわからなくなっていることに気づきました。
 すべての答えは現場にあるはずだと思い、原点にかえって徹底的に街をまわりました。トラブル処理や賃料査定、見込み物件の査定などで月に5000キロ近く走りました。4年4カ月で23万7000キロですから個人タクシー並みです。
 その結果、街がわかる、時代がわかる、市場がわかるようになった。1年もしないうちにすべての案件がわかるようになりました。これを続けたから、本部長として的確な判断や指示ができる。
 また、トラブルを未然に防止する方法も、社員が定着する方法もわかりました。一時が万事です。起死回生の策は常に現場にあった。そこで、これまでのやり方をガラリと変えました。

――たとえば?

営業マンが営業に専念できる体制をつくりました。営業マンは口頭で契約をまとめてくればいい。実際、営業から帰ってから契約書をゼロから作成するのは重い負担です。それは私がやる。これならどんどん次をまわれる。
 演劇でいえば、大道具、小道具、衣装からメイクアップまで裏方の私がやり、営業マンは舞台で最高のパフォーマンスをして拍手喝采を受ける。これなら仕事が楽しくなる。
 判断が難しい問題は私がカバーする。一例を挙げれば、オーナー様から「賃料更新のとき、借り手から減額要求があったがどうしようか」といった相談があったら、すぐに私に一報を入れるようにし、私が出向いて賃料査定をします。強気な交渉が可能かどうか、客観的な数字で判断したうえで交渉に臨むことができます。

――その傍ら、契約関係の書面作成もご自身ですべて作成するのは大変ではありませんか。

契約書面はトラブルを未然に防ぐための重要なポイントです。そこで契約書や覚え書き、特例、合意書などの書面についても、すべてのパターンを洗い出してフォーマットをつくり、データベースにしました。
 気が遠くなるほど大変な作業でしたが、今ではデータベースができたので、入社1~2年目の社員でも、携帯から簡単な指示をするだけで書類の原型がつくれます。それを微調整すれば完璧な契約書が即座に完成する。今も各種書面のデータベースは日進月歩で進化しています。

――御社が「トラブルの防止と解決」を得意としている理由がわかりました。ひとつは周到精密な契約書と報告相談体制ですね。

オーナーさんが気づかないようなトラブルの芽を、すぐに気づいて摘み取るのがプロである我々の役目。それには契約時にさまざまなケースを想定して書面で定めておくことが非常に有効です。
 たとえば、貸し主がトイレを設置して渡す場合、保守管理はどちらの経費になるのか、明け渡しのときは撤去するのか、残置するのか等々、トイレひとつとっても事前に合意書で取り扱いを定めておけば、トラブルを未然に防ぐことができる。そこで、私が想定合意書案を作成し、それを元に調整を図ります。営業マンが口頭でやりとりするより、書面があったほうがオーナー様も判断しやすいし、圧倒的に早い。
 転貸契約ひとつとっても、事前にオーナー様の承諾を得るケース、その都度承諾が必要なケース、その都度書面による承諾を得るケースなど、それぞれのフォーマットができています。滞納催促の内容証明書もフェーズ1、フェーズ2というように状況に応じたフォーマットがありますし、相続発生に伴う賃貸人変更の通知書のフォーマットなども出来ていますから、どんな事態にも即応できます。

――大変なノウハウですね。

これがあれば翌日から仲介会社ができますよ。外部流出が心配でシステム会社にも渡せなかった(笑)。

――一連の改革で社員の負担は減りましたが、それで社員はスキルアップできるのでしょうか。

できますとも。経営改革で私が目指したのは、仕事がラクで、給料の高い会社です。終身雇用に限りなく近く働ける会社です。こういう会社なら安心して仕事に取り組める。長く務めて経験を重ねれば自然にスキルアップします。お客さまとの信頼も築けますから、どんどん仕事がラクに楽しくなっていく。

――リーシング力も高まりましたか。

高まりました。リーシング力は「お客さまの満足度の高さ」×「数(契約実績)」です。満足度を高めるため、我々はひとつの物件に対して最低数人のチームで当たります。数をあたって多くのテナント候補を探し出さなければ、条件交渉も不利になります。それではお客さまの満足も得られません。お客さまの満足度を高めるには「当事者意識」と「チームワーク」が欠かせません。

――一方で、借り手側から店舗探しや店舗開発を依頼されることもありますね。

ええ、そうしたときは店舗開発部隊の分身になります。一見すると矛盾しているように思えるかもしれませんが、貸し主様、借り主様、双方の気持がわからないとベストマッチングはできません。借り手の戦略がわかるから、貸し手にも頼りにされ、信用されるのです。
 双方が満足する落としどころを探す。そこがこの仕事の難しいところであり、知恵の使いどころです。
 私は、オーナー様にとって「空室は悪だ」と思っていますし、「基本的にまとまらない契約はない」と思っています。

――経営改革で、管理とサブリースの受託を新しい柱に据えましたね。

ええ、これらは私たちが力を注いできた「リーシング」と「トラブル解決」「こまめな対応(ビルメンテナンス)」の延長線上にある事業であり、お客さまの信頼の証と捉えています。
 ストックが積み上っていくビジネスですから、社員が頑張った努力が報われる。前回申し上げたように、管理やサブリースを受託すれば、売上げ歩合が10%になるテーブルもつくりましたから、5~7年で年収1000万円も可能になりますし、会社にとっても安定収益が確保できます。オーナー様の立場や気持ちが実感としてわかるようになりますから、リーシングも「当事者意識」をもって臨むことができます。

――当事者意識をもってリーシングするとは、具体的にはどんなことでしょう。

ビルのオーナー様から「ビルが空いたから埋めてくれ」という依頼があるとしましょう。「面積は14坪、希望賃料は50万円で飲食店もOKですか、わかりました。頑張ります!」というのが、通常の仲介のパターンです。
 しかし、当事者意識があれば、「14坪で50万円ですね。わかりました。その条件で募集を開始しますが、店舗面積を実測させてください。飲食店もOKであれば、電気、水道、排水設備、ガス、ダクトルートなどのスペックの調査をします。念のため、構造や床強度も調べましょう。もし、建替えのご予定があるのなら、定期借家契約を検討してみてはいかがですか」となる。
 さらに家賃を優先するか、業種か、信用力か、そうしたところまでうかがって初めて、お客さまのニーズにお応えできるのです。

――社員の皆さんは、この経営改革をどう受け止めましたか。

歓迎しているようです。社員も経営改革の成果を見ていますからね。携帯から連絡するだけで完璧な契約書面が出来上がり、トラブルも解決できるという我が社の強みを実感し、「どこにも負けない」と感じていると思います。何よりもお客さまが喜んでくださる、契約がまとまる。営業マンにとって、それが一番の自信になります。

(3)今後の展開 に続く

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